公共事業におけるアセットマネジメントとは

1.背景

戦後わが国の高度経済成長を支えてきたのは公共事業を中心とした道路等の社会インフラの整備でした。しかしながら近年、高度成長から低成長へと時代の流れが大きく変化する中で、公共事業による社会インフラ整備に対しても、その期待と役割が大きく変わろうとしています。

戦後ほとんどストックが何もない状態から始められたわが国の社会インフラ整備も今や一定の水準に達したと言われ、それとともに現在では、膨大な社会インフラ資産(ストック)を抱える時代を迎えようとしています。

一方、社会インフラ整備を支えてきた公共事業の財源は、国や地方自治体が抱える膨大な財政赤字が依然として増大する中で、今後一層厳しい制約を受けざるを得ない状況になっています。更に加えて公共事業を取り巻く様々な不祥事から生じた公共事業に対する国民の不信感は依然根強いものがあります。このような時代の変化の中で、公共事業に携わる関係者も、従来の公共事業のやり方を抜本的に変革せざるを得ない状況に置かれていると言えます。

厳しい財源制約の下で、国民の信頼を得ながら真に必要な公共事業を進めていくためには、従来の建設中心の事業の進め方から、今ある資産(ストック)を限られた財源の下で最大限に活かしつつ、社会インフラによる公共サービスを国民のより高い満足、評価が受けられるよう適切な形で提供することが必要な時代になってきたと考えられます。つまり「つくる時代」から「つかう時代」に変わらざるを得なくなったと言えます。

このような中で、公共事業の進め方の新しい枠組みを確立するため、限られた財源の下で公共事業への信頼を回復する一つの手段として、公共事業におけるアセットマネジメントの導入について各方面で幅広い取り組みが行われるようになってきました。

公共事業におけるアセットマネジメントの考え方

公共事業におけるアセットマネジメントとは、公共事業が本来持っている目的である社会インフラによる公共サービスの最適化を達成するため、現在ある資産を適正に評価し、それを将来に渡って安全かつ快適に維持するとともに、国民の多様化するニーズに的確に応えるため限られた財源等の資源を有効に活用しながら、適切な公共サービスを提供していくためのマネジメントシステムです。

つまり、公共事業における投資決定に始まり、これらの投資の配分と執行管理をより優れたものとするために、エンジニアリング、財務、経済及び実務の最適遂行手法を組み合わせることと言えます。

より具体的に整理してみます。資産である社会インフラの物理的、機能的老化等を将来に渡り把握し、もっとも費用対効果の高い維持管理を行うとともに、公共サービスの最適化という観点から現有資産の有効活用に努めることが優先されます。次に、現有資産では明らかに国民のニーズに十分対応出来ない場合は、同じく費用対効果に十分留意しながら必要に応じて新たな新設投資を検討することが考えられます。

ここで、公共事業におけるアセットマネジメントを検討するに当たって、公共施設を管理する責務を担っている公共主体の関係者が留意しておくべき重要な項目をまとめてみます。

  • 施設利用者、国民等に最小費用で最大限の満足度を与える
  • 適正な管理水準の下で、適切な維持管理計画を策定し実行する
  • 現有資産を最大限に有効活用させるため、様々なソフト施策の充実を図り、公共サービスの向上に努める
  • 必要な新規投資を行う場合も、現有施設によって提供できる公共サービスの限界、利用者ニーズの実態を踏まえながら、維持管理投資も含むアセットマネジメント全体の中で検討する

利用者ニーズの把握、施策の評価、モニタリングが重要

各管理主体が所有している様々な関連施設についても投資財源の確保という視点からその資産(土地、建物等)としての運用、管理を適切に行う

プロパティマネジメント、ファシリティマネジメントの考え方

公共施設管理者が行う様々なサービスで、その施設利用者や納税者である一般国民の十分な理解を得ることが重要。そのたには、時宜を得た情報提供に努めるとともに、効果的なコミュニケーションを活用し、施設利用者等の理解に加えて参画、協働を促す

説明責任(アカンタビリティ)の重視、インフラ会計の導入

アセットマネジメントを有効に行うためには、資産の評価、分析、投資計画の決定等それぞれの段階で必要になるデータが容易に得られるような共有データーベースの整備が不可欠。また、この共有データーベースを活用することで施設利用者、一般国民との情報共有が可能となる

共有データーベースの導入整備が重要

公共事業におけるアセットマネジメントの概念

既存インフラに対する投資と新設インフラ投資をともに含んだマネジメントとしてのアセットマネジメントの概念図を以下に示します。

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アセットマネジメントの導入事例

現在わが国でもアセットマネジメントの検討は、国土交通省、土木学会、日本道路協会、各自治体、首都高速道路公団等の各機関で試行的に進められています。

ここでは、アセットマネジメントの全体像の整理に取り組んでいる三重県の事例と効率的な維持管理を目指して、合理的な維持管理箇所の選定を行うサブシステムの整備に取り組んでいる首都高速道路公団の事例の概要を紹介します。

三重県の事例

三重県では3年程前から、公共事業の効率的な進め方を目指したプロセスマネジメントシステム(PMS)の開発に取り組んできました。適切な公共サービスの提供を目標に、住民へのアカウンタビリティに配慮しつつ、資産評価に基づく管理水準の設定、新設も含めた投資計画の決定、事前、事後の評価も取り入れたプロジェクトの実施プロセスの効率化を全体的に整理したマネジメントシステムを以下のように提案しています。

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特に住民参加の視点から、公共事業実施の各段階で考慮すべき視点を以下のように分かりやすくまとめています。

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またPDCAの評価サイクルの取り込みについてもマネジメントシステムの中では、次のように位置づけられています。

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首都高速道路公団の事例

首都高速道路公団では、老齢化した道路施設の増加への対応や質の高いサービスの提供、コスト縮減、説明責任の高まりに対応するため、舗装、塗装、床版等の施設ごとに、管理目標を設定し、点検結果に基づき定量評価を行い、現場技術者の判断を加味して優先度の評価を行う統合マネジメントシステムの開発を進めています。

システムでは極力IT技術を活用し、共有データーベースに基づいた客観的な評価が出来るような工夫が施されています。

統合マネジメントシステムの概念図とスケルトンを以下に示します。

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今後の課題

このように、公共事業におけるアセットマネジメントシステムの検討はわが国においてはまだ緒についたばかりで、様々な機関、関係者が実用的なシステムの確立に向けて努力しているところです。

そこで最後に,このような各方面の取り組みを今後発展させる上で有効と考えられる課題を以下のようにまとめてみました。

(再録)